熱い男 エリック•カールの絵本 2冊

はじめに

私は育児の過程で絵本の読み聞かせが趣味となり、今や、その蔵書が1000冊をこえるまでに夢中になっています。
今回は貼り絵を使ったカラフルで楽しい絵本の作家として知られるエリック・カールの作品をご紹介します。
エリック・カールの作品は代表作「はらぺこあおむし」を筆頭に絵本にとどまらずアパレル、おもちゃ、雑貨などの関連グッズとしても人気があります。そのようなこともあり当初、私はデザイン重視の作家と思っていました。
 
しかし私が間違っていました。エリック・カール、熱い男です!
 
というわけで今回はエリック・カールの作家としてのメッセージが熱く伝わってくる2作品をご紹介します。
 

主人公は「絵描き」

まずは、ご紹介する2作品の共通点からご説明します。

エリック・カールの絵本というと動物、昆虫、鳥、魚といった生き物が主人公の絵本をイメージすることが多いと思います。しかし今回ご紹介する2作品の主人公はどちらも「絵描き」です。つまり両作品ともエリック・カールの自画像としての絵本作品といえます。

自画像というと西洋美術の重要なジャンルの一つであり、有名な画家や巨匠たちも多くの自画像を残しています。つまり商業アーティストではなく「芸術家」として王道のテーマで勝負した2作品と考えています。また自画像とは自分とは何者かを表現するものですから数ある作品の中でも強い主張・メッセージ性を持たせた作品であると考えらえれます。

絵本紹介

おほしさまかいて!

絵描きが星を描くところから始まり、太陽、植物、人間、動物と生み出していき、世界を作り出し、自ら作り出した世界を残しながら最後に絵描きが死を迎えるという内容です。

本作は絵本を芸術作品として美術の文脈に乗せた作品であると私は考えます。村上隆著「芸術闘争論」によると現代美術の評価視点として「コンテキスト」(文脈)と「圧力」が重要であると説明されています。そしてコンテキストとしては

  • 自画像
  • エロス
  • フォーマリズム(歴史を意識すること)
  • 時事

という5つから複数をシャッフルして作品の文脈として組み込むことが好まれるとあります。本作品は「自画像」「エロス」「死」という文脈を含んで構成されています。まずは主人公が絵描きであることからこの作品は「自画像」であることが示されます。

次に「エロス」です。本作では絵描きが生み出したアダムとイブのような全裸の成人の男女が描かれており、この表現は「愛」や「生」としてのエロスといえなくもないでしょう。

最後の「死」について主人公の絵描きが世界を創造し、死後もその世界(作品)が残ると描かれています。これは主人公は消費される商業アーティストではなく「芸術家」であるというメッセージと考えました。

以上のとおり美術の王道コンテキストに乗せて「カラフルで楽しい絵本の作家」であるエリック・カールが絵本を作ったわけで、作品としての「圧力」も強く感じます。芸術作品としての絵本そして芸術家としてのエリック・カールを感じることができる作品であると私は考えます。
おほしさま かいて!

おほしさま かいて!

 
芸術闘争論 (幻冬舎文庫)

芸術闘争論 (幻冬舎文庫)

  • 作者:村上 隆
  • 発売日: 2018/12/06
  • メディア: 文庫
 

 

えをかくかくかく

主人公の絵描きが「青い馬」「赤いワニ」「黄色い牛」と次から次へと不思議な色でさまざまな動物を描いていくという内容です。

 

この絵本は最後に「この絵本のはじまり」と題された解説があります。それによるとドイツ在住時代の美術の先生が絵を描くことが大好きなカール少年に、こっそり〈堕落した美術〉の複製画を見せてくれたそうです。それは政権をコントロールしていたナチスが〈退廃芸術家〉とよんだ画家たちの作品でした。そこには「青い馬」や「黄色い牛」といった鮮やかな動物たちが絵が描かれている作品があったということです。先生が逮捕されるようなリスクを負いながらカール少年に示してくれた「自由な美術」に対する思いが本作品では描かれています。

 

絵本の内容に戻りましょう。カラフルな不思議な色の動物が次から次へと登場し、そして最後に再び絵描きが登場し「自由な美術」に対する思いを絵本の中で宣言し、この絵本は終わります。

えを かく かく かく

えを かく かく かく

 

おわりに 

エリック・カール作品の魅力をお伝えできたでしょうか。最後に偕成社のホームページに掲載されているエリック・カールのQ&Aコーナー「おしえて!カールさん」の質問「カールさんはアーティストですか?」への回答を引用させていただき本記事を終わりにさせていただきます。

”私は絵本作家だから、商業アーティストと芸術家の中間のどこかにいると思う。私には、本という製品があって、読者というお客さんがいる。同時に、純粋な芸術家のように、自分のすきなときに、すきなように本を作ることができる。ところで、純粋な芸術家だからといって、作品がすぐれているとはかぎらない。私は、下手な芸術家の作品よりも、すぐれた商業アーティストの作品を選ぶよ。”

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