レオ・レオニ「フレデリック」にみる論理と直感のバランス

目次

はじめに

私は育児の過程で絵本の読み聞かせが趣味となり、今や、その蔵書が1000冊をこえるまでに夢中になっています。板橋区立美術館で10月23日から開催されている「だれも知らないレオ・レオーニ展」に行ってきました。そこで今回は展覧会のレポートとレオ・レオニの代表作「フレデリック」をご紹介します。

だれも知らないレオ・レオーニ

外観

入り口周辺のガラスには絵本のイラストが印刷されたフィルムが貼られていました。馴染みの作品が大きく飾られていると気分が上がります。

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板橋区立美術館

入館

入場にあたっては事前にオンラインでの日時予約(15分単位)が必要です。チケット購入時に予約画面を見せます。

混雑状況

私は平日の午前中に訪問したので空いていてゆっくりみることができました。休日の状況はわかりませんが、オンライン予約画面を見る限り15分枠に対して最大30人としているようです。

展示内容

まず最初にフレデリックの原画が迎えてくれます。原画は得られる情報が印刷物とは段違いです。特にフレデリックについては貼り絵の作品ということもあり、ねずみのフワフワした毛の質感は手でちぎったようで、植物などの背景はハサミ等ですっきりと切り取られているなど、絵本では得られない質感•立体感を見ることができます。

 

次に広告デザイナー時代の作品が並びます。続く政治風刺のイラストは1940~50年代に描かれたもので展覧会のタイトルどおり「知らない」一面をみることができます。そして油彩画、絵本の原画の展示へと続きます。ここに本展覧会の目玉とされている「スイミーの幻の原画とその謎」があります。

 

そして一連の展示をみて最も感銘を受けたのは広告デザイナーとして十分に社会的に成功したのちに、アートに対する政治的介入に疑問を持ち絵本作家となったというエピソードです。つまり、十分に人生経験を積んだのちに、自己の成功ではなくアーティストの社会的責任を果たすために絵本という手段を選んだという点です。

レオ・レオニの作品はそのメッセージ性の強さから堅苦しいと感じるところもありましたが、あたたかみのある先人の教えとして改めて作品にこめられたメッセージを読んでいきたいと感じました。

絵本紹介「フレデリック

フレデリック―ちょっとかわったのねずみのはなし
 

主人公は芸術家のネズミ

レオニは49歳ではじめての絵本「あおくんときいろちゃん」を発行しました。その後、1年に1冊の間隔で絵本を作成し40年で37冊の作品を世に出しています。うち物語絵本が29冊でそのうち、12冊がネズミが主人公です。そして今回ご紹介する作品「フレデリック」の主人公は芸術家のネズミです。つまりレオニの自画像としての絵本作品といえます。自画像とは自分とは何者かを表現するものですから数ある作品の中でも強い主張・メッセージ性を持たせた作品となります。

あらすじ

絵本を読んだことのない方向けに、簡単に内容を紹介しましょう。

ねずみ集団が冬に備えてせっせと働いている中、変わり者のフレデリックは色や言葉をためこんでいるというが、ぼんやりしているようにしか見えません。しかし、いざ厳しい冬になってみるとフレデリックの取り組みが集団を救ったという話です。

論理と直感のバランス

この作品は様々なメッセージを読み取ることができますが、主要なメッセージの一つとして「人はパンのみにて生きるにあらず」という芸術の役割の重要性があります。

そのメッセージをもう少し、日常生活のヒントとなるよう、かみ砕いてみたいと思います。すると論理と直感のバランスの重要性として捉えることができるのではないかと考えました。

ねずみたちは蓄えた食料と藁だけで厳しい冬を乗り切ることはできず、フレデリックの「心を動かす表現」で春を待つ気力を生み出しました。それは我々の日常生活においても同様であり、数値目標や業務分掌といった論理だけでは前向きに問題解決に取り組むことはできず「いいね!」と思われるようなビジョン、つまりフレデリックの役割である「心を動かす表現」が必要となってきます。

また日常生活や仕事の場での一見、論理が重視されそうな説明•説得という場面においてさえ、多くの場合、論理は反論を封じるという役割しか果たせず、説明の結果として実際のアクションにつなげるためにはその根底に流れる美意識による共感が重要となります。

一方、ストーリーの流れからフレデリックの芸術が集団を救ったという面に目がいきますが、そもそも働くネズミ達がいるからこそ、フレデリックが芸術に専念することができたという見方もできます。そして身近な育児においても愛情(美意識/直感)だけでなく経済(社会性/論理)という両輪が必要です。

つまり本作品のメッセージである芸術の役割を身近な日常生活におきかえると、論理と直感をバランスよく最大限活用することの重要性としてみることできるのではないかと考えています。

おわりに 

今回、久々の美術館訪問でしたが、静かな空間で自分のペースで、ただただ目の前の芸術作品に集中するという行為は心が洗われます。このたび、あらためてレオ・レオニのキャリアを俯瞰したことによる一番の気づきは 49歳で絵本作家として出発したという点です。人間、いくつになって新しいステージで活躍できるのだと勇気を得た一日となりました。

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