実在する「架空社」の絵本 3冊

はじめに

私は育児の過程で絵本の読み聞かせが趣味となり、今や、その蔵書が1000冊をこえるまでに夢中になっています。

私は長いこと、たむらしげるさんの「よるのさんぽ」という絵本を探していました。この絵本は「架空社」という出版社から発行されているのですが、amazonでも中古市場でもみつからず、どうしたら入手できるものか調べたくても会社のホームページもみつからずで「まさか架空の会社の架空の作品なのでは…」なんて空想したりもしましたが練馬区に実在する出版社でした。関係者の皆様、失礼いたしました。

一方、我が家の蔵書をみてみると何冊か架空社の作品があることに気が付き、さらには、いずれも作家の個性があふれ出た攻めている名作でした。そこで今回は「架空社」の絵本を3冊ご紹介します。

ちなみに「よるのさんぽ」はamazonではしばらく、新品在庫なしという状態でしたが、今年の7月に急に「在庫あり」となっていて無事、購入できました。

絵本紹介

やまのかいしゃ

文はスズキコージさん、絵は片山健さんと人気作家お二人による作品です。主人公の「ほげたさん」は会社員ですが、昼まで寝坊するわ、時計を忘れるわ、靴を忘れるわ、仕事用のカバンも忘れるわ…なんて状態で、挙句の果てに通勤電車の逆方向に乗ってしまい、山方面に行ってしまいます。そして山登りをはじめ、その山を会社にしちゃうというお話です。会社と逆方向に行って、終点駅から山登りということは高尾山かしらなんて思ってしまいます。

そんなほげたさんですが、奥さん子どもともうまくやっているようだし、同僚から社長にまで愛されています。この作品を読んでいると私自身、「まぁいいか」「なんとかなるさ」と心がほわッとします。私はともかく子どもは子どもで親以上に日々、新しい経験を要求され、子供なりのプレッシャーがかかっているんだろうなと思います。ですから、一緒にこの絵本を楽しむ時間を大事にしたいと思っています。読み聞かせは3歳くらいから楽しめると思います。

絵は明るく楽しく空気のきれいな山を感じられます。この絵本の絵は片山健さんでよかったですよ。もし絵がスズキコージさんだったら妙に緊張感が高まって「ほげたさん、こんなことで生活はどうするんだろう?大丈夫だろうか?」なんてスリリングな感じになっちゃいそうです。

私が持っているのは1991年に出版された架空社版ですが、その後しばらく品切れになっていたものを文章を一部見直して2018年に福音館書店が再版したそうです。(以下のリンクは入手しやすい福音館書店版です)

ところで「やまのかいしゃ」というタイトルで思うことは、もし、私が学生時代に戻れるなら、長期休暇は北アルプスの山小屋でアルバイトしかったと思っています。皆さんは学生時代に戻れたらやってみたいと思い続けているアルバイトってありませんか。

やまのかいしゃ (日本傑作絵本シリーズ)

やまのかいしゃ (日本傑作絵本シリーズ)

 

 

うまそうだな、ねこ

いつも猫にいじめられている魚が、猫を見返すためにどんどん進化するというお話です。猫と魚の関係がスリリングでハラハラしますが…ラストページでホッとさせられます。絵もかわいらしいですし、ストーリーもほかの絵本では見たことのないオンリーワン作品です。絵本の中で「進化」「退化」という単語が言い換えなしに、そのまま使われているのも攻めている感じがして好きです。4歳くらいから楽しめます。

 

アリのさんぽ

こしだミカさんの作品は『くものもいち』『いたちのてがみ』など、「こどものとも年少版」で読んだことがあり蜘蛛やイタチといった絵本の題材になりにくい生き物をテーマにしている点や、どちらの作品もそれらの生き物と人間とがお互いを尊重した関係が描かれていて視点が面白い作家だなと感じていました。

本作品は主人公のアリが世界の先がどうなっているのかいろんな動物に聞いて回る話です。絵柄も色彩もかなり独特です。グロテスクとみることもできますし、個性的でかわいいとみることもできます。アフリカやオセアニアの原始民族によるプリミティブアートのような感じともいえます。サイズが大きい本で一面に動物の植物の生命力がほとばしっています。絵本の中の会話は関西弁でやりとりされて、そのあたりもエネルギーを感じます。

驚きの結末で、非常に読後感が爽快で「よっしゃ!」と気合の入る絵本です。田島征三さんの「とべバッタ」に似た読後感です。

3歳ぐらいから楽しめると思います。私は妻から友人の出産祝いや子の誕生日向けに絵本をプレゼントする際に、おすすめを聞かれることが多いのですが、絵本、美術、音楽など文化系の趣味・素養がある人には、この絵本を勧めたいと思っています。

アリのさんぽ

アリのさんぽ

 

 

おわりに

出版社特集なんて酔狂な気もしましたが、私としては好きな作品をたくさんご紹介できよかったです。ちなみに今回ご紹介した「アリのさんぽ」も当初amazonでは新品在庫がなく、たまたま訪れたクレヨンハウスにひっそり置いてあった1冊を発見し、即購入したという経緯があります。調べたといっても書籍やブログという範囲ですが絵本業界のことを調べてみると多くの関係者の発言として

  • 小規模な出版社は特に、品切れになったとしても、ある程度、売れる見込みがたつまでは重版しない。
  • 新刊絵本(非ロングセラー作品)はなかなか売れない。

という2点があります。そのためロングセラー以外の絵本は「ほしい」と思ったら、そのときに買ってしまったほうがよいのかもしれないと考えております。 

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