尾崎玄一郎さん・由紀奈さんの不思議な世界 絵本紹介 3冊

はじめに

私は育児の過程で絵本の読み聞かせが趣味となり、今や、その蔵書が1000冊をこえるまでに夢中になっています。今回は尾崎玄一郎さん・尾崎由紀奈さんというご夫妻の作家による絵本を3冊ご紹介します。

ご夫婦で絵本作家というのは調べてみるとたくさんいらっしゃいました。一部をご紹介すると

などなど国内外問わずで驚きました。
尾崎玄一郎さんは現代美術作家であり、絵画教室を運営しているそうです。そして経歴を調べると尾崎由紀奈さんも美術大学をご卒業されており、どちらが文でどちらが絵といった役割分担はないのかもしれません。
 
お二人の作品の特徴は意外性のある世界観でありながら自然なストーリーを楽しめるところです。一般的に絵本で複雑な設定にチャレンジしようとすると設定へのこだわりから物語の展開が損なわれてしまったり、逆に風呂敷を広げすぎて設定が甘くなり、物語のリアリティが失われてしまったりすることがあります。
しかし、お二人の作品は独特の世界観をオリジナリティあふれる絵で緻密に力強く表現することにより説得力のある物語を楽しむことができます。

絵本紹介

おしいれじいさん

こどものとも年中向き2012年8月号」として発行された作品で、2019年にハードカバー化されています。

昭和の香りがする「おしいれ」に「おしいれじいさん」と呼ばれる魚の姿をした生き物?お化け?が住んでいて、夜になって人間が布団を取り出すと目を覚まし、活動を開始するというお話です。 おしいれじいさんは押し入れの中で、しまわれている道具やおもちゃで遊ぶのですが、なんと「釣り」をします。魚なのに「釣り」?

表紙は何かがこちらをギロリとみているような一見、怖い絵柄ですが、おしいれじいさんは愛らしくかわいくて、ユーモアたっぷりの楽しいお話です。

おしいれじいさん (こどものとも絵本)

おしいれじいさん (こどものとも絵本)

 

 

きしゃのゆ 

こどものとも 2016年12月号」として発行された作品です。ハードカバー化はまだされていません。こどものとも福音館書店が発行している月間雑誌ですが、本作品は比較的最近発行された作品なのでメルカリ等の中古市場ではまだ手に入れやすいと思います。

こちらの絵本も表紙だけ見ると紺と紫をベースとしたダークな色合いで、ちょっと怖そうな話に見えてしまいますが、そのようなことはありません。

内容は新米機関車が線路の道に迷い、偶然見つけた汽車専用の銭湯に入ってみて様々な出会い・経験をするという内容です。汽車がキャラクターとして活躍するお話や、動物などが森の中で温泉に入るお話などはよく見かけますが、汽車が銭湯に行く話は聞いたことがありません。ほかにない世界観です。

世界観を構成する様々な設定のほんの一部をご紹介すると、入浴にあたって入り口で受け付けのおばさん汽車に炭水車とスコップを預けたり、汽車を洗う洗い場の仕組みなどなど、よく考えられています。気合の入った絵がストーリーを十分に物語っており、楽しくさわやかな気分にさせてくれるお話です。

 

きっさすなどーひー

 「こどものとも 2019年8月号」として発行された作品です。ハードカバー化はまだされていません。最近の作品なので2020年11月においてバックナンバーの取り扱いのある大型書店やネットショップなどでもかろうじて新品購入可能かと思います。

ここまでくると表紙が怖いのは慣れましたが、本作品においては、もはやタイトルを読んでも何がモチーフとなっているか想像すらできません。「おしいれじいさん」と「きしゃのゆ」はタイトルと表紙から物語の舞台や登場するキャラクターの想像ができましたが「きっさ すなどーひー」とはなんぞや?表紙のキャラクターは?疑問がいっぱいです。

内容を説明します。公園の地下に喫茶店があり、そこでは公園に生息する妖精のような妖怪のような存在「土くれ」(つちくれ)が夜な夜な集ってきます。そこの喫茶店の名物が「すなどーひー」です。すなどーひーとは公園の砂場にしみ込んだ水に砂や泥の風味を抽出し、公園の地下を通ってドリップされた飲み物です。その喫茶店をめぐる楽しいお話です。表紙にいるのは喫茶店のマスターです。

「どーひー」という名前について子どもと話題になり、私は「土でできているから土曜日の"土"からきているんじゃないか」と話したところ、子どもが「どろの"ど"じゃないか」といっており、お話をしっかり読むと子どもの説がただしいことがわかるのですが、文章と絵を一体として見ている子どもの理解力に驚いたものでした。また子どもの理解の度合いからも、この作品が物語設定の面白さだけでなく、子どもが集中して物語の世界に入っていく力のある作品であると実感しました。

おわりに

今回は意外性のある世界観でありながら自然なストーリーを楽しめる尾崎玄一郎さん、由紀奈さんの作品をご紹介しました。どの作品も作家のオリジナリティが物語の説得力につながっております。いずれも表紙が怖い感じがしますが、楽しい作品でおすすめです。「きしゃのゆ」も「きっさすなどーひー」もハードカバー化してくれるとうれしいです。

参考情報

  •  絵画教室 OZ:尾崎玄一郎さんの運営する絵画教室のサイトです。サイト内のブログにはそれぞれのに絵本に関する記事もあります。

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  • ご紹介した3冊の絵本は「こどものとも」シリーズとして出版された作品です。