昭和30年代の農村の子供時代が体験できる 菊池日出夫さんの絵本 3冊
はじめに
私は育児の過程で絵本の読み聞かせが趣味となり、今や、その蔵書が1000冊をこえるまでに夢中になっています。
読み聞かせの際は基本的に私がセレクトしたものを順に読んでいくのですが、そのときの息子の気分にあわない作品はタイトルを読んだ時点やその本を手に取った時点で「違う。それじゃない。」となります。
しかし、どのようなときでもウェルカムな鉄板作家が存在します。次の3名です。
絵柄も取り上げる題材も異なるお三方ですが、あえて共通点をあげれば
- ノスタルジーを感じる作風であること
- 教訓ものではないこと
のらっこの本シリーズについて
「のらっこの本」シリーズとは主に福音館書店の月刊雑誌である「こどものとも」で発行された絵本のシリーズです。昭和24年生まれ、長野県佐久地方出身の菊池日出夫さんの子どものころの体験をもとにした絵本で、昭和30年代の農村の子どもたちの生活が描かれています。私の父が昭和24年生まれですから、息子にとってみるとおじいちゃん、おばあちゃんの子ども時代の風景でありお話ということになります。
絵本紹介
のらっこ
こどものとも1987年10月号の作品です。
「おーい、きよしちゃーん、なにやってるだあ」
「たの こいとりづらあ」
たんぼで こいを かっている のうかは、
いねかりのまえに たの こいとりをする
という説明から物語は始まります。菊池さんの作品の特徴の一つとして場面のズームアウト、ズームインを非常に効果的に描いています。
最初の場面も田んぼで働く大人たち、昔ながらの日本の家、馬小屋、手前の山、遠くの山、その中に走っている子供たちといったズームアウトからはじまり、次のページでは田んぼに向かってかけてくる子どもたちの生き生きとした表情や体の動きがみられるズームインのシーンとなります。子ども達も手伝っての稲刈りの一日を描いた作品です。すばらしい絵本作家の方は子供のころの心象風景をよく覚えているものだなと思います。
ラッキー
こどものとも2000年11月の作品です。過去にハードカバー化されたこともあるようです。タイトルの「ラッキー」とは主人公のひでの飼っている犬の名前です。本作品は主人公のひでおと友人たちがラッキーと出会った時の話です。山でちゃんばらようの木を探しているときに見つけたイヌの子を持ち帰ったのですが、家で飼うのを許してもらえず、桑畑の中の隠れ家で友人グループで飼育をするというお話です。
菊池日出夫さんの絵本の特徴の一つに方言があります。
「ちゃんばら やらっちょ」
「おれが ひまみて せわしとくずら」
「どうしらっか」
など長野県の方言なのだと思いますが、読んでいて気持ちがよいですし、子どもも気に入ってまねしています。この絵本では子どもたちがつくった「かくれが」がでてきます。私も空き地や雑木林の一角に友人と作ったものでした。この絵本では隠れ家に入るときの合言葉などもでてきて、私も子供時代を思い出して胸が熱くなります。
ほたるさわ
こどものとも2008年7月の作品です。このあたりはかろうじてメルカリなどの中古市場でも適正価格で入手可能だと思います。
こどもたちのグループでホタルをとりにいくというお話です。夜の雑木林の深さや暗さと対照的な蛍の美しさが絵本いっぱいに伝わってきます。大きい子から小さい子、男の子と女の子が混ざって遊んでいる風景というのは懐かしいです。年長者がリーダとなって小さい子の面倒を見ながら遊ぶというのは私の時代もそのような感じはまだ残っていたと思います。
私も田舎育ちですが、たくさんの自然のホタルを見たというのは1度くらいしか記憶にありません。ホタルがみられる場所を探して、子どもにもこのような経験をさせてあげたいものです。
おわりに
菊池日出夫さんの「のらっこ」シリーズからを3冊ご紹介しました。入手しづらいという点がとても残念なのですが、他の作品では味わうことのできない絵本体験が得られる作家であり作品群です。
私の親世代、子どもにとってはおじいちゃん、おばあちゃんの世代の話なのですが、私も子どもも、その世界に入り込み、登場人物であるひでぼう、ごろ、まさしちゃん、としちゃんたちと一緒に遊んだ記憶として残るレベルです。世代を超えて子供時代の楽しい思い出を味わうということができます。
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