筒井康隆の絵本「ジャングルめがね」

はじめに

私は育児の過程で絵本の読み聞かせが趣味となり、今や、その蔵書が1000冊をこえるまでに夢中になっています。今回は「こんな絵本を持っています」という珍しい絵本のご紹介です。SF作家の筒井康隆による絵本です。

一般的には「時をかける少女」の原作者だったり、ドラマの「七瀬再び」や「富豪刑事」の原作者と知られているのではないかと思います。

筒井康隆は私にとって中学、高校生時代の憧れの存在であり、カリスマ的な存在でした。出会いのきっかけは自宅に置いてあった文庫の「くたばれPTA」でした。

「くたばれPTA」は当時、母親が買った本で「PTAの活動に疑問があって、PTA活動の課題や解決法が書いてある本だと思って買ったけれど、全然違った。なんだか気色悪い話ばかり載っていた」と言っていたのを覚えています。それに私は興味を持ち、読み始め「こんな面白い小説があるのか」「こんな考え方が許されるのか」とその強烈な作品群に目覚めさせられ、中学、高校とひたすら読んだ作家でした。小説の中の思いもよらぬ発想や不謹慎なアイデア、エッセイでの過激な発言など私の人格形成に大きな影響があったと思う作家です。たぶんそれはよい影響ではないとは思いますが…

そんな先生が絵本を出していたと知り、早速、入手し読み聞かせをして見ましたので、その内容をご紹介したいと思います。

絵本紹介「ジャングルめがね」 

ジャングルめがね (すきすきレインボー)

ジャングルめがね (すきすきレインボー)

  • 作者:筒井 康隆
  • 発売日: 2010/01/20
  • メディア: 単行本
 

文は当然、筒井康隆先生。絵は「ホネホネさん」シリーズでおなじみ、にしむらあつこさんです。ジャングルめがねをかけると、まわりの人たちがジャングルのどうぶつに見える。主人公のしんすけくんがジャングルめがねをかけて事件を解決するという内容です。

この絵本はもとは婦人向け雑誌「暮らしの設計」(中央公論社)の1971年7月号に掲載されて、1977年に単行本として発行されています。その際は長尾みのるさんというイラストレーターが絵を手掛けており、以下のような表紙となっています。ちなみにこのバージョンは私は所有しておりません。その後、にしむらあつこさんの絵で2010年にリニューアルされたというのが経緯となっております。

物語の中身の話に移ります。物語上で事件を発見するきっかけとしては

  • 主人公のしんすけくんがお父さんのおつかいでタバコを買いに行く

となっております。実際、私も子供のころ、お釣りをもらえるから喜んでお使いでタバコを買いに行ってましたけどね。ただそれは1980年代の話です。ここはお父さんに頼まれて例えば缶コーヒーを買いに行くでもよかったような気がします。

そして、肝心の物語上の事件は

  • 黒い車のおじさんが女の子を車に乗せて誘拐する

です。絵本の中でおきる事件としては生々しい感じがします。どちらのエピソードもリニューアルの際に変更したらよかったのにと私は思いました。

しかし、私が編集者だったらリニューアルのタイミングで筒井先生に「時代にそぐわないので…」とは恐れ多くて言えないのかもしれません。過去にも表現者として言葉狩りや自主規制とは戦ってきたお方ですから。断筆宣言されたのが私が高校一年の頃だったかな。そのころの先生は私のカリスマでありヒーローでした。

おわりに

本作品の主人公は「しんすけくん」です。当時、ご長男の伸輔さんに向けてつくった絵本なのだと思います。自分の息子のために絵本をつくり、それが商品として流通するのはうらやましいですね。

ちなみに前述の気になる点はあるものの絵本として「ジャングルめがね」は絵はかわいくストーリーも面白く、我が家では息子も大好きな一冊です。ページ数はそこそこありますが、1ページ当たりの文章も多くないので3歳くらいから楽しめると思います。