変なおじさんの絵本 3冊

はじめに

私は育児の過程で絵本の読み聞かせが趣味となり、今や、その蔵書が1000冊をこえるまでに夢中になっています。今回は変なおじさんが登場する絵本をご紹介します。実はおじさんがモチーフの絵本は結構あります。絵本ナビで「絵本児童書」として検索した結果は次の通りです。

  • おじさん、おじちゃん→194件
  • おばさん、おばちゃん→97件
  • おじいさん、おじいちゃん→204件
  • おばあさん、おばあちゃん→299件

いかがでしょうか、なかなかのメジャーな存在感を示しています。

そして絵本では「おじさん」は原則として「変な」存在として扱われているように感じます。お父さんも、おじいさんも、おにいさんも持っていないものを持っている存在として「おじさん」は頑固だったり、変わってたり、ミステリアスだったり、見知らぬ世界を見せてくれたり、ちょっとかわいかったりします。今回はそんな「おじさん」の絵本をご紹介します。

 

絵本紹介

おじさんのかさ

代表作「100万回生きたねこ」で知られた佐野洋子さんの作品です。本作品ではこだわりが強くて、そしてちょっとかわいいおじさんが登場します。主人公は傘を溺愛しているおじさんです。

おじさんは雨が降っても傘をさしません。傘を濡らしたくないがために見知らぬ人の傘に入れてもらって移動するほどです。そんなこだわりの強いおじさんの心の変化が描かれた作品です。

絵本の中でおじさんは、傘をうっとり眺めて楽しそう、ホテルの入り口で雨宿りして楽しそう、人の傘に入れてもらって楽しそう、そして雨の中を出発して、無表情の人たちの中で歩いていても終始、子供のような表情で楽しそうなんです。

そんなおじさんを変な人だなとみることもできますし、逆にこだわりをなかなか捨てられないことの共感もあります。またおじさんの奥さんのように、そんなこだわりの人をかわいらしく思う気持ちもわかりますし、だけど身近にいたら困るかな?なんて思いもあったりします。

「笑える」「泣ける」「感心する」「切なくなる」など読者の感情をあらかじめ想定された特定の方向に動かすことができる物語も、それはそれで楽しめるものですが、この作品のように特定の感情に分類しずらい感情を味わえる絵本に出会えると絵本を読んでいてよかったなと感じます。

 

おじさんのかさ (講談社の創作絵本)

おじさんのかさ (講談社の創作絵本)

  • 作者:佐野 洋子
  • 発売日: 1992/05/22
  • メディア: 大型本
 

 

くろいマントのおじさん

この絵本はこどものとも1999年11月号として発行され、後にハードカバー化されていますが、現在は一般書店では入手できないようです。
まずは表紙のインパクトがすごいです。ふくよかな体に小顔がちょこんと乗っています。そうです、表紙のおじさんが「くろいマントのおじさん」です。

しかしこのおじさんは物語の中では異形の人ではありません。登場人物はすべてこのような風貌です。画像検索をしてみるとわかりますが、作者の金森宰司さんは画家で、ふくよかで温かみのあるフォルムの人物画が特徴の画家です。調べてみると絵本はこの1作品だけをつくられているようです。

そんな大きなおじさんが、ある日、ヨーロッパ風の街に登場します。セールスマンのようにも見えます。おじさんは大きなカバンから気球をとりだし、町の一人の少年と一緒に気球に乗ります。そしておじさんは少年に未知の世界を見せ、去っていきます。

文字だけみるとシンプルなストーリーに見えますが、絵のオリジナリティと柔らかい色彩が相まって幻想的で不思議な感覚と物語の温かみを生み出しています。

実際に子供のころの父親以外の「おじさん」は父親が話さないような種類の面白い話をしてくれたり、家族といったことのないような場所に連れて行ってくれたりと、この作品のおじさんのような存在だった気がします。

くろいマントのおじさん (日本傑作絵本シリーズ)

くろいマントのおじさん (日本傑作絵本シリーズ)

  • 作者:金森 宰司
  • 発売日: 2000/06/20
  • メディア: 大型本
 

 

ジャリおじさん

当初、こどものとも年中向き1993年8月号として発行され、現在はハードカバー化されている作品です。

 

作者の大竹伸朗さんは本業は現代美術家です。私は現代美術家村上隆さんが好きなのですが、東京芸大日本画を専攻していた村上隆さんが20代半ばに大竹伸朗さんの展覧会をみて現代美術に目覚め、方向転換をしたというインタビューを読んだことがあり、そこで名前を知りました。

 

鼻のあたまに髭のあるジャリおじさんが歩き続ける中で様々な出会いと出来事に遭遇するというお話です。回収されない伏線と突っ込み処が満載で笑えます。ですが、わかる人にしかわからないようなナンセンス絵本ではなく、ストーリーもしっかり楽しめます。絵についても斬新で一見、落書きのように見えますが、明るい色合いでかわいく、視線の誘導も工夫されており絵単体でも物語を十分に楽しめるようになっています。読むたびに発見があり、楽しくホッとした爽やかな気分になれる絵本です。

 

私はこの絵本が絵本ガイドなどで紹介され、十分な評価を受けたのちに出会っております。しかし本作品にリアルタイムで出会った人たち、つまり、こどものともの月刊誌として幼稚園などで配られ、子どもが持ち帰ってきたものを読み聞かせた人達はどれだけの衝撃だったのだろうかと思います。

ジャリおじさん (日本傑作絵本シリーズ)

ジャリおじさん (日本傑作絵本シリーズ)

  • 作者:大竹 伸朗
  • 発売日: 1994/11/20
  • メディア: 大型本
 

おわりに

いかがでしたでしょうか。おじさんってひたすら取っつきにくいひともいれば、妙にフレンドリーな人がいたりします。そして興味のない人からみたら、変なことに膨大なお金と時間をつかっていたり、密かに驚くような経歴と才能を持っていたりして、それらの楽しいお話を聞かせてくれる人もいます。おじさんが「変」なのは絵本の中ではないのかもしれません。

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  • ご紹介した「ジャリおじさん」と「くろいマントのおじさん」は「こどものとも」シリーズとして出版された作品です。

  • 「へろへろおじさん」(作:佐々木マキ)をご紹介しています。