心地よい孤独感と懐かしさが同居する作家 たむらしげるさんの絵本 3冊

はじめに

私は育児の過程で絵本の読み聞かせが趣味となり、今や、その蔵書が1000冊をこえるまでに夢中になっています。

読み聞かせの際は基本的に私がセレクトしたものを順に読んでいくのですが、そのときの息子の気分にあわない作品はタイトルを読んだ時点やその本を手に取った時点で「違う。それじゃない。」となります。

しかし、どのようなときでもウェルカムな鉄板作家が存在します。次の3名です。

絵柄も取り上げる題材も異なるお三方ですが、あえて共通点をあげれば

  • ノスタルジーを感じる作風であること
  • 教訓ものではないこと
という2点です。そのうち今回は、たむらしげるさんの作品をご紹介します。まずは百聞は一見にしかずです。Googleの画像検索で「たむらしげる」と検索いただけますでしょうか。すると「みたことある」という方もいらっしゃるのではないかと思います。幻想的な風景なのに、どこか懐かしく、孤独感があるのに、それが心地よいというイラストを描かれる作家です。

絵本紹介

よるのさんぽ

眠れない少年が夜の散歩にでかけるというお話です。透明感がある色彩で、シンプルなイラストなのですが、奥行きがあり、その場にいるかのような没入感がある絵本です。

本作品について、しばらくamazonでは新品在庫なしという状態であり、中古については私の手の届く価格ではないという状態でした。しかし「ほしいものリスト」にいれていたら、今年の7月に急に「在庫あり」となっていて即購入した一冊です。

架空社という出版社から発行されており調べても会社のホームページもなく、この作品もなかなか手に入らないことから、まさか架空の会社の架空の作品なのではなんて空想したりもしましたが練馬区に実在する会社でした。

翻って我が家の蔵書をみてみると何冊か架空社の作品があり、いずれも名作であり、いつか記事として取り上げたいと思います。

そして今回の件が該当するかどうかは確実ではないのですが、出版業界のことを調べてわかったことは

  • 小規模な出版社は特に、品切れになったとしても、ある程度、売れる見込みがたつまでは重版しない。
  • 新刊絵本はなかなか売れない。

という2点です。つまりロングセラー以外の絵本は「ほしい」と思ったら、そのときに買ってしまったほうがよいのかもしれないと考えております。 

よるのさんぽ

よるのさんぽ

 

 

のってみたいな

こどものとも年少版2018年11月号の作品です。2020年10月現在ではハードカバーにはなっておりません。パンでできた自動車や、くじらの潜水艇など、たくさんの夢のある乗り物が登場します。

食いしん坊の息子は「おかしのくにを走るティーポット鉄道」のページを食い入るように見ています。二桁連続で「もっかい」(もう一回読んで)があった作品です。

たむらしげるさんの複数の作品で繰り返し現れるモチーフである「ロボット」や「あるく家」が登場し、うれしくなります。

ハードカバー化希望です。

 

よるのおと

少年が夜、お爺さんの家に訪問するというお話です。すいこまれるような青が美しい作品です。偕成社の記事によると興味深い説明がありました。通常の絵本は

  1. 画家が描いた原画をスキャナーで取り込む。
  2. スキャナで取り込んだ結果を分解してシアン、マゼンタ、イエロー、ブラックという4色の小さな点の集まりとして再現する。

という手順でデータ化し、そのデータから印刷用の版をつくります。

ところが本作品においてはイメージしている青を再現するために印刷用の版をたむらさん自身にて作成したそうです。印刷用の「版」とは刷版(さっぱん)とも言いますが、どのようなものかというとハンコと朱肉をイメージしてください。そして

  • 4色の朱肉:インク(CMYKならその四色)
  • 4つの版(刷版):4色ごとのハンコ
となります。その4つのハンコを押したものを重ねることにより原画を再現するという流れになります。
さらに!本作品はシアン、マゼンタ、イエロー、ブラックという通常の4色のインクではなくサファイヤブルー、パープル、イエロー、ブラックという特殊な4色のインクを使っているそうです。なんという手間のかけようでしょう。
作品の話に戻ります。本作は、たむらしげるさんの作品の魅力である、
  • 非現実的でありながらノスタルジック
  • 孤独感があるのにそれがここちいい

が十二分に詰まっていて、吸い込まれるように絵本の世界に連れて行ってくれます。

 

よるのおと

よるのおと

 

おわりに

たむらしげるさんの作品を3冊ご紹介しました。たむらしげるさんの作品のように、うまく分類できない、ことばで説明しづらい、だけど「わかる」という感情が味わえる作品に出合えるととても満ち足りた気分になります。

皆さんも、このリアルと幻想が同居した不思議な世界への旅を楽しんでみてはかがでしょうか。

参考サイト

参考にしたサイトです。

関連記事

  • たむらしげるさん作の「おばけのコンサート」をご紹介しています。

  • たむらしげるさんは作家活動の初期にガロに漫画を掲載していました。

  • 「よるのさんぽ」は架空社から出版されています。

  • 「のってみたいな」はこどものとも年少版の作品です。

  • 「よるのおと」の創作の原点のひとつ(たむらさん談)とされた作品「よあけ」をご紹介しています。