誤記または誤植かと思ったら
絵本を読んでいて知ったことがあります。
"おきにいりの タイツに きかえて グリーンの スカーフを まきました。"『クネクネさんのいちにち きょうはマラカスのひ』(福音館書店)より
"そこで、2かいにあがると、ひとりで ねまきに きかえて、ちいさいベッドに はいり、すぐに ぐっすり ねむってしまいました"『せきたんやのくまさん』(福音館書店)より
最初これらの文章を読んだとき誤記または誤植かと思いました。「きかえて」という表現です。「きがえて」じゃないだろうかと。調べてみるとどちらも正しいそうですが「きかえる」の方が伝統的な読み方だそうです。もう少し調べてみると童謡「うれしいひなまつり」の歌詞も「きものをきかえておびしめて」でした。
日本語っておもしろいですね。というわけで取り上げた作品のうち一つをご紹介します。
せきたんやのくまさん
くまさんシリーズの一作目となります。ハードボイルドな文体が特徴です。感情を交えず、ひたすら客観的かつ具体的な事実の描写だけがつづきます。
このスタイル、私は読んでいて気持ちがよいです。文章として解釈の余地が少ないことができのよい技術文書を読んでいるかのような気分にさせるのでしょうか。
この文体はレンスキー作のスモールさんシリーズが近いです。ただスモールさんシリーズは登場人物に比較的、表情があることや例えば「ちいさいじどうしゃ」であればパンクしてスペアタイヤに入れ替えたり、雨が降ってきてほろをつけたり、といったストーリーに起伏があるのですが、このくまさんシリーズは表情はなく淡々とひとりで職務をまっとうして1日が終わります。
という説明をすると退屈な絵本のように聞こえるかもしれません。しかし、その抑制の効いた絵と文章が、くまさんをメルヘンチックな存在ではなく、リアルな労働者・生活者として表現しており、そのことが独特の迫力を放ち、ほかにはない魅力となっています。
くまさんシリーズはほかに「パンや」「ゆうびんや」「うえきや」「ぼくじょう」があります。「せきたんや」が石井桃子さん訳、「パンや」「ゆうびんや」「うえきや」および「ぼくじょう」が間崎ルリ子さん訳となっております。
訳者は異なりますが、いずれも
①職業・持ち物紹介
②仕事+関連する擬音(せきたんやでは「どすん」)
③ささやかな感謝
④疲れて寝る
⑤締め
という型が様式美として確立しています。ちなみに「ぼくじょうのくまさん」だけが童話館でそれ以外が福音館書店となっています。経緯は調査しておりません。
先日、本屋に行くと「ボートやのくまさん」と「しょうぼうしのくまさん」が2020年の新刊として売り出されていました。小宮由さん訳となっております。
小宮由さん訳の2作は未読ですが、様式美は継承されているのでしょうか。気になります。こちらも、ぜひ読んでみたい2作です。
紹介した作品