ほろ苦だから美しい ドン・フリーマン 絵本紹介 3冊

はじめに

私は育児の過程で絵本の読み聞かせが趣味となり、今や、その蔵書が1000冊をこえるまでに夢中になっています。

そのなかでも今回はアメリカの絵本作家ドン・フリーマンの作品をご紹介します。「少し違うけれど、それでよかった気がする」という感情が味わえる作家です。

思えば私も紆余曲折、「少し違うけれど」と様々なほろ苦さを味わってきました…と私のことはさておき、ドン・フリーマンのことをご紹介します。非常にユニークな経歴です。ジャズトランペッターとして働きながらも、美術学校に通い絵の勉強をしていたそうです。そんなある日、地下鉄でトランペットを置き忘れてしまい…それをきっかけに絵の仕事に専念することにしたそうです。そのような経歴が関連しているのかどうかはわかりませんが「少し違ったけれど、それでよかった気がする」というテーマが多くの作品で共通して流れています。

絵本紹介

くまのコールテンくん

デパートで売られているくまのぬいぐるみとそれを買いに来た女の子との友情の物語です。原題は「Corduroyコーデュロイ)」です。コーデュロイのオーバーオールを着たクマのぬいぐるみが主人公です。そのぬいぐるみの名前がコールテンくんです。今だったらコーデュロイくんだったのかもしれませんがコールテンくんの方が親しみやすい感じして私は好きです。

 

原書の初版は1968年。日本では1975年に出版され40年以上前からのロングセラーです。物語の舞台はデパートです。デパートというと昨今の厳しい経営環境からすると私の孫がこの絵本を読むころは「おじいちゃんデパートってなあに?」と蒸気機関車のように物語の世界にだけ登場する存在になっているのでしょう。

 

物語の説明に入ります。とある理由でコールテンくんは夜のデパートを探検するのですがエスカレーターを山登り、家具売り場を王様の御殿と勘違いし、ずっと山登りがしたかった、ずっと御殿にすんでみたかったと喜びます。

そして女の子がコールテンくんを購入し、自宅に連れて帰ります。そこでずっと豪華なデパート住まいだったコールテン君は初めて一般人の慎ましやかな「家」にくることとなります。そこで、コールテン君はずっと前からうち(一般家庭)で暮らしてみたかったと喜びます。ここまではコールテン君の「ちょっと違うけど、それで幸せ」です。一方、女の子は、オーバーオールのボタンがはずれたコールテン君を購入し、「あなたのこと、こもままでもすき」と伝えます。

このように単純なハッピーではない、すべてが完璧に物事が進むわけではないけれど、いとおしい日々というものが感じれられる温かい作品です。

くまのコールテンくん (フリーマンの絵本)

くまのコールテンくん (フリーマンの絵本)

 

ターちゃんとペリカン

夏休みに家族で海に遊びに来た男の子とペリカンの友情のお話です。そのペリカンは去年もキャンプ場そばの海辺にいたので、今年も会えるかなと楽しみにしていたところ…

そのペリカンは会えるかなと思えばいないし、もうどこかにいったかなと思えば登場するしと、きまぐれな存在です。一見、恋愛心理のようですが人間関係にかぎらず、探すのをやめたとき見つかることもよくある話だったり、仕事や生活上の目標も執着してるときはそこに届かないのに、しばらく執着を忘れて気が付いたら遠回りだったが届いていたみたいなことはあると思います。そのような、すべてが完璧に物事が進むわけではないけれど、それがまたよいという人生のエッセンスが味わえる作品です。

 

また以前、子どもの喜ぶ話の一つのパターンとしてデコピンのように、ためてためてーーっドーンとたまった力を解き放つような「ぐぐーっとためてから解き放つ」というパターンがあるという仮説を記事に掲載しました。この作品にも、その要素が含まれています。

物語の終盤で男の子がやっと会えたペリカンに対して「いったいどこにいっていたのさ?……どうしてだまっているの?」と迫るシーンがあります。そこでペリカンは無言で待ちながら…最後、大きなくちばしを「ぐわぁー!」とあけて男の子にとあるプレゼントを渡します。ここの「男の子は迫る」「ペリカンは無言」というところで十分な間をとって…ためてー…「ぐわぁー」というペリカンの声を読みながらページを開くと子どものテンションがあがります。

ターちゃんとペリカン

ターちゃんとペリカン

 

ダンデライオン

キリンからパーティに招待されたということで気合をいれてライオンはおしゃれをするのですが、空回りして失敗してしまうというお話です。最後はありのままのライオンを友人たちが迎えてくれます。

ファッションに限らず、自分を現実以上に大きく見せようとして失敗するということは、自分のことは思い出すだけで胸が痛くなりますが、多くの人が経験しているのではないでしょうか。そんなほろ苦い感情がありながらも、結果として「少し違ったけれど、それでよかった気がする」と素直に伝えてくれる作品です。

また、明るく楽しい絵なのですが、気が付くと黄色と茶色の二色の濃淡でだけですべてを表現しており、絵としても素晴らしい作品です。

ダンデライオン (世界傑作絵本シリーズ)

ダンデライオン (世界傑作絵本シリーズ)

 

 おわりに

ドン・フリーマンの作品を3冊ご紹介しました。私などは日々「少し違ったけれど、これでよかった(ということにする)」の繰り返しです。このように単純には分類できない、ことばで説明しづらい、だけど「わかるなぁー」という感情をドン・フリーマンは自然な絵と文で表現しています。このような単純には分類できない感覚が味わえる作品に出合えるととても満ち足りた気分になります。

参考資料

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  • 「ターちゃんとペリカン」でも出てきた「ぐぐーっとためてから解き放つ」パターンは子どもの好むお話の形式であるという仮説をご紹介した記事です。